花は花に。鳥は鳥に。
「だよねー。さすがに、浮気して十日目でいけしゃあしゃあと、それはないわ。」

 軽い口調で敬子が言った。

 あんまりな言われように、ちょっと祐介が可愛そうに思えてきた。

 自業自得にしても、とにかく皆にボロクソに言われているわけだ。


 なんで遙香だったんだろう、とか。

 わたしに落ち度があったんだろうか、とか。

 硬くて冷たかった想いが、ゆるくて柔らかなものへ変化する。


 客室へ戻って、敬子が洗顔してる隙に、メール欄を開けた。

『楽しんでる?』

 一言だけ。

 祐介らしいというか、ヘンな所で遠慮したり気を遣ったり。

 ヘンな感性の持ち主だなと、ちょっと面白いと思ったりする。


 何か書かなきゃいけない気がしたんだろう。

 何も言わないままだと存在を忘れられそうで怖くなったのかも。

 自分がどういう立場に居るかを、きちんと解かっている男だ。

 今にも切れそうな細い頼りない綱の上をぐらぐらしながら渡っている。

 女癖の悪いカレシ。

「治せるものなら治してる、」

 開き直って言い放ったのは何度目の時だったか。

 こんなメール一つで許してしまいそうな自分が、情けなくて、だけど嫌いじゃない。

 祐介のことは、嫌いじゃない。だから、別れられない。

 彼がどれほどわたしに執着しているかが、たった一言の中に見え隠れしている。


 それでも別の男を好きになったら、その時はあっさりと終わってしまうんだろうか。


 いろんな女を好きになって、結局いつもわたしの所へ帰ってくる祐介。

 わたしは、たった一度の心変わりでも、その先に何処へ行くかなんて解からない。

 次に好きになった相手に乗り換えてしまうかも知れない不安を、お互いに抱えている。

 祐介が浮気をしなければ、気付かずにいられたんだろう。

 好きになるのは簡単で、嫌いになるより先に別の誰かを好きになったら泥沼だ。

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