花は花に。鳥は鳥に。
「おばちゃん、わたしは……、」

「解かってるわ、どんな男やろぉと好きになったモンはしゃーないわな。」

 母はそんな事まで喋ったのか。

 一瞬だけ、カッとして、すぐに冷めた。母が心配するのも無理はない男だ。

 なにより、祐介の所を飛び出して、実家で洗いざらいをぶちまけてしまったわたしの自業自得なんだから。

 おばちゃんが言った。

「せやけど、あんまり心配かけたらあかんで?」

 おばちゃんの言葉には、同じ苦しみを乗り越えた者の温かみが籠もっていた。


 母は、この叔母に何を話したんだろう。

 わたしと同じことで苦しんできたおばちゃんだ。

 それなのに、まるで過去を蒸し返すような悪しざまな言葉の数々を聞かされたんだろうか。

 おばちゃんにも、親友すら失うような過去があったんだろうか。

 おじさんを見捨てたくなった事があるんだろうか。

 わたしと同じように、それでも離れたくないと思い知った日が、あったんだろうか。


 なんだかこみ上げてくる感情があって、なんでもいいから声に出して吐き出したい思いに駆られた。

「おばちゃん、わたしね、あんな男だけどそれでも好きなの。

 お母さんが心配するのも当然だと思うけど、だけど、」

 言葉が詰まった。

 もっとイイ男が他に居るかも知れないとか、なにもハズレの男で満足しなくていいとか、人に言われた言葉がぐるぐる回る。

 一緒に居続けたからって褒められたもんじゃない、別れたからって責められたもんじゃない、それは解かってるんだ。

 だけど、自信がない。

 人が、出会って、別れる、そこには間違いなんてものはないって。

 堂々と言い切れない。

 おばちゃんの目が優しかった。

「大丈夫やで。おばちゃんもそうやったんや。」


 おばちゃんは、本当に大した事じゃないような口調で続けて言った。

「おっちゃんなんかはなぁ、浮気はするわ、パチンコはするわ、働かへんわで、もっと大変やった。

 あんたんトコなんか、まだまだマシやで。」

 不思議なもので、この叔母にそう言われると、なんだか本当に大丈夫な気がしてきた。

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