花は花に。鳥は鳥に。
 まさかわざわざ、わたしを探してくれたんだろうか。

「あのさ、おばちゃん。

 もしかして、母に頼まれたからって、わたしの事……、」

「まっさか! アンタのお母ちゃんにも言うたで。

 そんなん広いホテルやのに、また会えるかどうかなんて解からへんわ!ってな。

 せやから、期待はせぇへんけど、会えたら言うといてっていう話やったんや。」

 そうだったのか。

 確かに、消灯間近の大きなホテルで知人一人を探すなんて、さすがのおばちゃんでも無理だと解かるよね。

 気安く引き受けたのかと心配してしまったけど。


「せやけどなぁ、紗江ちゃん。

 一回くらい、お母ちゃんの顔立てたってもバチは当たらへんで?」

「おばちゃん。わたし、付き合ってる男いるんだよ?

 一緒に住んでんのに。そんなの、相手の人に失礼じゃないよ。」

 あっ。つい、勢いで祐介と同棲してるってバラシちゃった。

 けれど、おばちゃんは軽く流して頷いただけだった。

 もしかして、知ってたんだろうか。母が話していたのかも。


 おばちゃんが黙ると、代わりに隣の麻由美が割り込んだ。

「紗江ちゃん。アンタ、真面目やなぁ。」

 麻由美は目を丸くしてそう言った。

「カレシおったかて、構へんやん。

 言わんかったら解からへんのに、いちいち気にしなや。

 そんで、もしお見合い相手の方がエエ男やったら、さっさと乗り換えたらええねん。」

 な、なんてことを!

 麻由美の口調はまるで悪びれてもいなくて、度肝を抜かれてしまった。

 カレシと見合いはベツモノ、とでも言いたげに麻由美は得意げだった。

 けど、そういうもんなんだろう。わたしの頭がお固くて古臭いのだ。

 今は、そんな風に簡単にコイビトを乗り換える時代だ。


「アホ。紗江ちゃんはアンタと違うねん。

 真面目やねんから、余計な知恵付けな!」

 おばちゃんが麻由美の頭を引っ叩いた。

 うわぁ、生漫才が始まったみたい。

「痛いやんか、お母ちゃんのアホゥ。

 うちは紗江ちゃんの為を思ってアドバイスしたってんねんで!」

「アンタのんは、ただの悪知恵や。二股なんぞ勧めてどないすんねん。

 ……勘忍したってや、ロクな事教えへんねんから。」

「二股せぇなんて言うてへんやんか! なぁ!?」

 こっちにフリが来たけど、巧い返しなんて咄嗟には思いつかずに、コクコクと頷いた。

 これがナニワ名物"無茶振り"かぁ。


「ママさん、ビールちょうだいや。こっちの二人にもな。」

 そうかと思えば、おばちゃんはもう態度を豹変させて、にこやかにバーのママに追加注文を始めた。

 しんみりしたい気分だったのに。

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