花は花に。鳥は鳥に。
「なー、なー、紗江ちゃん。

 あたしも聞いたんやけどな、カレシってそんなにヒドイん?」

 母は麻由美にまで話したのかと、今度こそ頭に来た。

 けれどすぐに冷静になる。いや、おばちゃんが話した可能性の方が高い。

 母なら、言葉を濁すだろう。

 どっちみち、浮気者な祐介の自業自得、人に話したわたしの恥だ。


 自己嫌悪の波に打たれていると、おばちゃんがさらに大波を被せた。

「女にだらしのうても、ちゃんと働いてんねやろ?

 立派なもんや。大丈夫やで。」

「そうやで、紗江ちゃん。

 うちのおとうちゃんなんか、ほんま、ロクデナシやったんやから。

 そこまでヒドないんやったら、どうもないで。ほんま。」

 笑ってしまった。

 二人して、叔父さんの事を好き勝手に貶している。

 麻由美はコレで、わたしに気を遣ってるつもりだったようだ。


「そういえば、叔父さんは? 一緒じゃないの?」

「あんなんと一緒やったら羽伸びへんがな!

 留守番や、留守番。

 ええんや、若い頃にさんざん遊んできたんやから、今度はうちらが遊ぶ番やねん。」

 おばちゃんは手を振って、ありえない、と否定の素振りを見せた。

 叔父さんは自営業だったはずだ、働き手のおばちゃんが休みを取ったら色々と大変そうだと思った。

 それでもきっと、文句は言えなかったんだろうな。

 祐介の短いメールを思い出した。

 罪悪感とか負い目とか、色々なものが詰まった一言だと気付いた。


 わたしを思い返した。

 いや、おばちゃんはきっとおじさんも一緒にと思ったんだ。

 ただ、仕事の都合でおじさんは来れなかったんだ。

 二人に笑って、行っておいでと言ったんだ。


「おばちゃんはさ、おじさんと別れようとか、考えたことなかった?」

 この質問をいきなりは拙かったかな、と思った。

 だけど、おばちゃん達なら聞いても大丈夫な気もしていた。

 麻由美の顔を窺い見てしまったら、彼女はおばちゃんの方を見ていた。

 実の娘でも、遠慮していた質問だったんだろうか。

「そんなん、ナンボでもあるよ。」

 さらりと。

 何でもないような口ぶりは、逆に何よりも雄弁だった。

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