花は花に。鳥は鳥に。
わたしの仕出かした事は、わたしだけでは終わらない。
人は誰かと繋がっているのだから、そんな事は当たり前だ。
たった一人、わたしに繋がっていたせいで、母は世間から後ろ指を指されるようになってしまった。
わたしのせいで。
「ううん。なんでもない、忘れて。」
今さら謝ってもどうにもならない事だ。
自己満足なら仕舞っておこう、見苦しいから。
瞳を陰らせた母に、わたしは話題を逸らすために言った。
「それよりほらっ、人が多くなってきたよ。清水が近いんじゃない?」
「そうみたいね、けどちょっと疲れちゃったわ。休憩しましょ、遙香。」
一瞬曇った母の顔は、すぐに笑顔に戻った。
母の言葉で、迷ってる間にそうとう歩いたことを思い出した。
けれど、沿道の店舗はどこも満員なんじゃないかと思うほどの混雑ぶりだ。
空いていそうな店となると、値段的にぼったくりなんじゃないかと訝る佇まいだった。
「座れるなら多少は目を瞑りましょ、場所代だと思えばいいのよ。」
ふう、と息をついて、母がそう言った。
母の言葉でわたしは自分を無理やり納得させた。
観光地の物価が高い事は解かりきってる。
一見、料亭のような佇まいの店は見るからに空いている。
値段を見れば、コースの昼食が一万円以上で提示されていた。
お茶だけっていけるんだろうか。
「遙香、こっちこっち、」
路地の前で母が手招きをしていた。
「ちょっと早いけどご飯にしましょうよ。
きっとお昼時になったら、一斉に混むわよ。」
それは有りそうだと思った。頷いて母に同意した。
「でね、あのお店なんだけど、路地の奥ってきっと空いてるわよ。」
母の指差す先に、小さな看板が出ていた。目ざとい。お値段も手頃だ。
母は、何も聞かない。
噂は耳にしたんだろうに、何も言わなかったし、何も変わらなかった。
母は口癖のように「なるようにしかならないわよ、」と繰り返す人だったから、あの時もそう思っていたんだろうか。
わたしを見る近所の目が、明らかに変化した。
ただの横恋慕じゃない、わたしがやった事は世間じゃ物珍しいケースだった。
地元というのは、けっこう狭い。
祐介にちょっかいを出された報復で、紗江が言いふらしたのかと思ったりした。
女って感情の生き物だから。いざとなったら何をするか解からないものだから。
けれど紗江は紗江のまま、何も変わらなくて、卑屈になっていたのはわたしの方だった。
噂話が、空耳だと解かっているのに、どこからとなく聞こえてくるようになっていた。
人は誰かと繋がっているのだから、そんな事は当たり前だ。
たった一人、わたしに繋がっていたせいで、母は世間から後ろ指を指されるようになってしまった。
わたしのせいで。
「ううん。なんでもない、忘れて。」
今さら謝ってもどうにもならない事だ。
自己満足なら仕舞っておこう、見苦しいから。
瞳を陰らせた母に、わたしは話題を逸らすために言った。
「それよりほらっ、人が多くなってきたよ。清水が近いんじゃない?」
「そうみたいね、けどちょっと疲れちゃったわ。休憩しましょ、遙香。」
一瞬曇った母の顔は、すぐに笑顔に戻った。
母の言葉で、迷ってる間にそうとう歩いたことを思い出した。
けれど、沿道の店舗はどこも満員なんじゃないかと思うほどの混雑ぶりだ。
空いていそうな店となると、値段的にぼったくりなんじゃないかと訝る佇まいだった。
「座れるなら多少は目を瞑りましょ、場所代だと思えばいいのよ。」
ふう、と息をついて、母がそう言った。
母の言葉でわたしは自分を無理やり納得させた。
観光地の物価が高い事は解かりきってる。
一見、料亭のような佇まいの店は見るからに空いている。
値段を見れば、コースの昼食が一万円以上で提示されていた。
お茶だけっていけるんだろうか。
「遙香、こっちこっち、」
路地の前で母が手招きをしていた。
「ちょっと早いけどご飯にしましょうよ。
きっとお昼時になったら、一斉に混むわよ。」
それは有りそうだと思った。頷いて母に同意した。
「でね、あのお店なんだけど、路地の奥ってきっと空いてるわよ。」
母の指差す先に、小さな看板が出ていた。目ざとい。お値段も手頃だ。
母は、何も聞かない。
噂は耳にしたんだろうに、何も言わなかったし、何も変わらなかった。
母は口癖のように「なるようにしかならないわよ、」と繰り返す人だったから、あの時もそう思っていたんだろうか。
わたしを見る近所の目が、明らかに変化した。
ただの横恋慕じゃない、わたしがやった事は世間じゃ物珍しいケースだった。
地元というのは、けっこう狭い。
祐介にちょっかいを出された報復で、紗江が言いふらしたのかと思ったりした。
女って感情の生き物だから。いざとなったら何をするか解からないものだから。
けれど紗江は紗江のまま、何も変わらなくて、卑屈になっていたのはわたしの方だった。
噂話が、空耳だと解かっているのに、どこからとなく聞こえてくるようになっていた。