花は花に。鳥は鳥に。
 紗枝に無理を言って、カレシを連れてきてもらってのダブルデートを企画したのはわたしだ。

 思えば、あの日から何かがおかしくなっていった。


 今でも覚えている。

 初めて会った時の、祐介の服装も、髪型も、不満げな表情まで。

 あんなに露骨に、不機嫌を他人に見せて憚らない人間は珍しいと思ったものだ。

 初対面の場だというのに、まるで取り繕ろおうともしない。


 驚きだった。新鮮な驚きでしばらく感動してた。

 紗枝の肘がせっついた。

「あ、ごめん、」

 咄嗟に謝って紗枝を見たら、彼女の瞳には怯えの色が浮いてた。

 またわたしの事をイジケた目で見てる、そう思った。


「行こ、紗枝。」

 気付かぬフリで二人に駆け寄ってく。わたしはもう祐介を見ない。

 心配しなくても、盗ったりしないわよ、紗枝。

「遅せぇよ、遙香。」

「なによぉ、あたし達とっくに来てたわよ。」

 わたしが付き合ってる男は、仕事帰りに声を掛けてきたナンパ師だ。

 ノリで合わせてるけど、馴れ馴れしく肩を組むほどの月日は経ってない。

 付き合いだしてほんの数か月。


 背中に祐介の視線。何でわたしを見てるのか、どきりとした。

 紗枝のカレシのくせに。どうして?

 さりげなく首を回して背後の二人を見た。

 祐介じゃなかった。紗枝が上目遣いでわたしを恨めし気に見ていた。


 いつからかはっきりしないけれど、紗枝はいつの間にかわたしを窺い見るようになった。

 高校が離れてしまっていたし、わたしの知らない場所で、何か心境の変化があったんだと思う。

 イジメられてるんじゃないかと気を揉んだこともあった。

 紗枝は何でもわたしに相談してくれたのに、この頃になると、何も相談してくれなくなっていて、この時もわたしは素知らぬフリを通したんだ。

 なんだか遠くなってしまった距離が、いやにはっきりと感じ取れた。

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