花は花に。鳥は鳥に。
 日曜の喫茶店は、普通なら混んでいるんだろう。

 ここはオフィス街の一画で、企業が軒並み休んでいる曜日だから、ガラガラに空いていた。

 祐介は赤いチェックの大柄なシャツを上着代わりにTシャツの上から羽織っていて、ジーンズだ。

 それで待ち合わせた店の隅っこに隠れるように座って脚を組んでいた。

 ふてくされた表情。紗枝の居る時はこんなに露骨じゃない。


「浮気する男って、たいがいそう言うよね?」

「声がデカいな。」

 祐介は不服そうにわたしを睨んだ。敵意丸出しだった。

 自分の落ち度を責められて逆切れだなんて、子供みたいな男だと思った。

「他の娘にちょっかい出す時にさ、紗枝の顔とか浮かんでこないの?

 都合よく忘れちゃってるわけ?」

 痛い所を突いたのだろう、祐介はそっぽを向いた。

 舌打ちをして、それきりわたしの方を見ようともしなかった。


 わたしは一度呼吸を整えてから、改めてウェイトレスを呼び、珈琲を注文した。

 女の子の姿が完全に厨房へ消えてしまってから、祐介は横目でわたしの方を見て、言った。

「紗枝に言われて来たのか?」

「そんなわけないでしょ。」

 紗枝がそういう姑息な手段を講じる子かどうか、カレシのくせに判別付かないのかと呆れた。

「単なるあたしのお節介。

 あんまりだからさ、あの子にはナイショであんたに言ってやろうと思っただけ。」

 この時のわたしは、きっと隣のおばさんみたいに正義感に燃えていた。

 祐介は、じっとわたしの顔を見ていた。

「な、なによ。」

 イケメンだから、やはりそうなるとドギマギした。


「お待たせいたしました、」

 タイミングよく珈琲が来て、やっぱりウェイトレスの女の子も祐介を意識して視線を投げていた。

 祐介はといえば、よほどに慣れてしまっているらしく、まったく気に留めもしなかった。

 俯いたままテーブルを凝視している姿は、世間と自身を遮断しようとしているようにも見えた。

 わたしは当たり障りない会釈とお愛想笑いで、珈琲を置いてくれたウェイトレスに対応する。ごく当たり前に。

 紗枝は自分のカレシがイケメンだという事を認めない。

 紗枝の思うイケメンは範囲が狭くて、テレビに映るほとんどの俳優は普通の男だと言った。

 海外の、いわゆるソース顔が彼女の物差しだった。


 女の子が去ってしまうと、祐介はだんまりを止めて、わたしを上目遣いに見つめた。

「そうか。紗枝のこと、俺に取られて悔しいのか。」

 挑戦的な笑みを浮かべて、いきなりそう言った。

 ドキリとした。図星だったんだろう。

 わたしは二の句も告げずに押し黙り、意地悪な視線を反抗的に押し返していた。

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