花は花に。鳥は鳥に。
 確かに、わたしは祐介が気に食わなかった。

 紗枝の一番はこの男に譲ってしまったから。

「そうよ、悪い? だって、あたしは紗枝の親友なのよ?

 大事な親友が、ロクでもない男に引っ掛かって泣いてるのに、黙ってられるわけないでしょ?」

 祐介はまた、むっとした顔になった。

「あの子の一番は、ずっと、あたしだったの。

 なのに、急に出てきたアンタが、なんだか知らない間に一番になってたのよ。

 それも、あの子を心配させて、不安に陥れることでね。」

 お互いが敵意の眼差しを投げ合っていた。


 紗枝は、そんな事になっていたなんて今でも知らないだろう。

 なんで祐介がいきなりそんな訳の解からない事を言いだしたのかは知らない。

 紗枝を盗られて悔しい、そう見えないこともないかも知れない。

 別に男が原因で疎遠になったわけでもなく、もっと以前に紗枝はわたしを避けていたけど。

 どうしてなのかなんて、そんなの、わたしが知りたい。


 しばらく無言で、二人が珈琲を啜っていた。

 目線を合わせることもなくだんまりで座ってる二人は、傍目にはきっと別れ話の最中とでも映っている。

 お互い、眉間に皺を寄せて、そう考えると似た者同士かも知れない。

「紗枝は、俺のこと、本当はどう思ってる?」

「え?」

 急に、祐介が頼りない声を出した。

 目が泳いでいて、さっきといい、今といい、本当に表情豊かな男だとどうでもいい感想を抱いた。


「そんなの、付き合ってんだったら解かってるもんでしょ?」

 正直に答えてやるのも癪に障るから、わざと突き放した。

 紗枝は、この男に夢中なのだ。


 どんなに浮気されても、「別れる!」とヒステリックに叫びだしたことはない。

 次は別れる、次は別れる、そう言って毎回許してしまう。

 祐介は、やっぱりわたしの方を見ようともせずに言葉だけを放り出した。

「心の中なんて、解かるわけないだろ。自分自身ですら、持て余してるのに。」

 この男の、こういう表情は本当に狡い。

 傷付いた顔をして、何に傷付けられたのかを考えると理不尽極まりないのに、彼の表情は魅力的だった。

 身勝手な男だ。

 自分の浮気癖で好きな女を泣かせて、嫌われたんじゃないかと怯えている。

 自分に傷付いてる。

 どうしても治らない病気だと、言い訳で逃げてる。

 なにより、浮気相手の女など、この男の頭にはカケラさえ残ってはいないんだ。

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