花は花に。鳥は鳥に。
「あのねぇ、根本を治そうっていう努力は、そもそも無いわけ?」

「治るもんなら治してる。……駄目なんだ、声を掛けられるともう。」

 女には理解不能な理屈だ。

 少なくとも、あの時のわたしには何を言ってるんだかさっぱり解からなかった。

 頭にきて、彼をなじった。

「百歩譲って、イイ女だなとか思うのはアリだとしてもよ?

 その女に色目使われて、それを受けちゃうのはどうなのよ。

 アナタにはカノジョがいて、カノジョの顔が浮かんだはずでしょ?

 ……何を考えてるの?」

 わたしの質問に、祐介は何も答えなかった。


 流れるような自然さで、他人を傷付ける人間がいる。

 見えていない場所で、平気で信頼を裏切る人間がいる。

 なんてヒドイ奴なんだと世間では騒ぐけれど、当の本人の気持ちなんか、きっと考えもしない。

 どう頑張っても治らない癖で、もがき苦しんでいる人間がいる。

 癖は、そうそう治せないから癖というんだろうに。

 その性質が悪性であればあるほど、癖だと言って許されない。

 同じはずなのに。


 祐介はテーブルに両肘をついて、俯いて、両手で顔を覆った。

 下唇を強く、噛んでいた。


 後悔するくらいなら、最初からやらなきゃいい。

 そうは言えないことを、わたし自身が身を以って知った。

 ぽっくりをカラコロ鳴らして石畳を歩くと、時の流れが変わっていく。

 ゆっくりと穏やかな流れに合わせるように、わたしもささくれた心を鎮めていった。


 遠く離れた西の国。

 本当に遠くへ来たと実感させる風景が広がっている。

 山々は蒼く、うっそうとこの街を取り囲んで、静かに蹲っていた。

 千年もの歴史がゆったりと進んでいく。ここは城崎。

 目まぐるしい東京の時間とは、違う時間が流れていた。

 背の高い建物は見当たらず、街の真ん中を通る澄んだ流れの両側に人々の暮らしが寄り添っていた。

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