花は花に。鳥は鳥に。
「はーるか!」
母の声が少し遠い。
気付けば、少し先に母が立って、呆れたような顔をしてわたしを見ていた。
わたしは慌てて母に追いつき、誤魔化し笑いを浮かべてみせた。
母は意地悪だ。
「なにを見とれてたのよ、」
肘で突っついて、そう聞いてきた。
「遙香の好みってああいう感じ? 彼女とか、居るのかしらねぇ?」
母はチラチラと背後に視線をやり、板さんの背中を盗み見た。
なにか企んでいる微笑に、わたしは先回りで釘を刺した。
「止めてよ、お母さん。
ホテルの人に根掘り葉掘りとか、そういうの、要らないからね?」
母は唇を尖らせて、それでいて、「大丈夫よ、遙香、」と誤魔化した。
きっと大丈夫なんかじゃない。
母はわたしがまだ祐介に後ろ髪惹かれる想いでいるのだと勘違いしている。
出来ればやり直したいと思ってはいても、それはあんな関係になる以前からだ。
時を戻せたら。
そしたら、間違いなど起こさなかった。
祐介に抱かれたりしなかった。
そう思う度、あの時の彼と同じように強く唇を噛みしめる。
無かったことにしてしまいたかった。
愛なんかじゃない。
そんな誤魔化しをするつもりなんかない。
紗枝はわたしを信じてくれていたのに、わたしは紗枝を裏切ったんだ。
祐介が優しかったからとか、寂しかったからとか、そんなのは言い訳だ。
どうしてわたしは、紗枝のカレシと解かっていたのに、彼に惹かれてしまったんだろう。
呼び出せばいつでも応じる祐介に、最初は嫌悪の混じった苛立ちを感じていた。
そのうちに、苛立ちは紗枝のほうへ向いた。
祐介の住むマンションは、デザイナーズのお洒落な建物だ。
公園を見下ろすロケーションで、かなり高額な買い物だったろう。
いずれ紗枝と住むつもりだと、人の気も知らないで残酷な事を平気で口にした。
そんな事を言えるくらい、彼にとってわたしはどうでもいいオンナだった。
母の声が少し遠い。
気付けば、少し先に母が立って、呆れたような顔をしてわたしを見ていた。
わたしは慌てて母に追いつき、誤魔化し笑いを浮かべてみせた。
母は意地悪だ。
「なにを見とれてたのよ、」
肘で突っついて、そう聞いてきた。
「遙香の好みってああいう感じ? 彼女とか、居るのかしらねぇ?」
母はチラチラと背後に視線をやり、板さんの背中を盗み見た。
なにか企んでいる微笑に、わたしは先回りで釘を刺した。
「止めてよ、お母さん。
ホテルの人に根掘り葉掘りとか、そういうの、要らないからね?」
母は唇を尖らせて、それでいて、「大丈夫よ、遙香、」と誤魔化した。
きっと大丈夫なんかじゃない。
母はわたしがまだ祐介に後ろ髪惹かれる想いでいるのだと勘違いしている。
出来ればやり直したいと思ってはいても、それはあんな関係になる以前からだ。
時を戻せたら。
そしたら、間違いなど起こさなかった。
祐介に抱かれたりしなかった。
そう思う度、あの時の彼と同じように強く唇を噛みしめる。
無かったことにしてしまいたかった。
愛なんかじゃない。
そんな誤魔化しをするつもりなんかない。
紗枝はわたしを信じてくれていたのに、わたしは紗枝を裏切ったんだ。
祐介が優しかったからとか、寂しかったからとか、そんなのは言い訳だ。
どうしてわたしは、紗枝のカレシと解かっていたのに、彼に惹かれてしまったんだろう。
呼び出せばいつでも応じる祐介に、最初は嫌悪の混じった苛立ちを感じていた。
そのうちに、苛立ちは紗枝のほうへ向いた。
祐介の住むマンションは、デザイナーズのお洒落な建物だ。
公園を見下ろすロケーションで、かなり高額な買い物だったろう。
いずれ紗枝と住むつもりだと、人の気も知らないで残酷な事を平気で口にした。
そんな事を言えるくらい、彼にとってわたしはどうでもいいオンナだった。