花は花に。鳥は鳥に。
「また連絡してええかな、」

 控えめに、平井君の元カノはそう言った。

 断ち切れない想いを、か細い糸の先へ結びつけた。

「いつでもええよ。

 せやけど、こういう話は俺よか、女友達にでもした方がええと思う。」

 平井君の返事を聞いて、わたしも心の中で頷いていた。

 冷静な判断も、的確なアドバイスも、今の彼にはしてあげられないのだから。

 結局、他愛ない昔話と世間の噂話だけでお茶を濁して、彼女は相談らしいことは言わなかった。

「あっ、ごめん。

 あたし、用事を置いてきてるんや、これでおいとまするわな。」

 適当に見計らったような唐突さで、彼女は席を立ち、慌ただしく去っていった。

 最後まで、わたしに目を向けなかった。


 気まずい沈黙だと、平井君は思っているかも知れない。

 わたしは別段なにも気にすることなく、だんまりで冷めかけた珈琲をひと口啜った。

「下手な芝居に付き合ぅてもろて、すんませんでした。」

 とうに空になったカップを見つめて、平井君はまた謝った。よく謝る子だ。

 肩の荷は下りただろうか。わたしには、そうは思えなかった。

「あれで良かったの?」

「ええ。すんまへん、関係ないのに何や重たい空気で気分悪ぅしましたやろ。」

「ううん。けど、なんだか解からないままってのは、もやもやして嫌かな。」

 軽口にそう言うと、平井君は困ったように眉を下げてわたしを見た。

 他人に話すようなことじゃない、平井君は迷っていた。


 もとより、彼を困らせるつもりはない。わたしはさっさと話を切り上げた。

「場所、変えよっか。お勧めだってお店、教えてくれる約束でしょ。」

「そうでした、案内しますわ。

 そんで、僕に奢らしてください、お世話になったお礼やし。」

「じゃあ、遠慮なく。」

 ようやくと腰を上げた二人を待ちかねたように、店員さんがレジへと先回りした。

 もう閉店するのかも知れない、ちょっと長居しすぎたようだった。

< 96 / 120 >

この作品をシェア

pagetop