魔力のない世界
そう言えば、私なたはの名前知ってる?
わからないの?
そうよね…私もわからないの……
名前で呼ばれることもないから、忘れちゃったわ。
ただ、"H-02B"って誰かが言ってたわ。
だから、それがきっと私の名前なのよ。
「起きてください。ご飯の時間です。」
「…」
彼女は夢を見ていた。
相手が誰かわからないが、自分の自己紹介をしている夢だ。
きっと、普通の自己紹介ならば、好きな食べ物や好きな色なんかを言ったりするのだろうが、彼女の場合は好きな食べ物も色も無かった。
彼女にあるのは、"無"。
「30分で食べてください。」
「…」
彼女は無言で出された食事を食べ始めた。
とても味の薄いご飯で満腹感を得ることはできない。
30分と経たずに15分くらいで完食してしまった。
「では、検査に入ります。」
淡々と言葉を発する研究員の人に私はただ着いていく。
これが、私の生活。
これ以外に私はなにもすることがないの。