魔力のない世界
広い湯船はのびのび使えるけれど、それ以上に一人の寂しさの方が大きい。
ちゃぷちゃぷと水の音を立ててもその音が書き消されることはなく、静かに空気の中に溶けていった。
浴槽に顎まで浸かり、ぼんやりとあの夢の事を思い浮かべた。
『瑞季』
あれは、私の名前なのだろうか。
『さあ、起きて…』
あの声は、誰なのだろうか…
男性の声…優しくて、透き通るような…
それに、あの夢が現実ならば、本当に外に出られるのだろうか…
…私が一番行きたい世界へ、行くことができるのだろうか…
ひとしきり考えると、頭がくらくらしてきた。
…少しのぼせてしまったようだ。
彼女は浴槽から上がり、フラフラとした足取りで風呂場を後にした。
部屋に戻ると彼女はすぐさまベッドに横になった。
そしてそのまま眠りについた。