初恋

「死ぬなよ！
一人で溜め込むなよ！」

瀧澤はその子を抱きしめたまま怒鳴っていた。


瀧澤の背中に手を回したその子の手首からは血が流れて、瀧澤のカッターシャツも赤く染まっていった。



訳がわからない状況に、あたしは混乱しつつも、なぜか冷静に、

「てか、保健室行こうよ」
とだけ言った。


笹野は、笑って
「そうだな」
と言い、女子トイレを出て行った。

泣き崩れる彼女を瀧澤はおんぶして保健室まで四人で行った。


ツッコミどころ満載のこの状況に、ツッコめずに沈黙のまま保健室にいた。

保健室の先生に手首を包帯でぐるぐる巻きにされている彼女は一体…。
っていうかあれってリストカットだよね。
自殺しようとしたのかな。
瀧澤の友達？
笹野も知り合い？


あたしの頭の中はハテナマークでいっぱいだった。




彼女の治療が終わると、彼女は笹野からカバンとブレザーを奪い取り、

「ごめんね。
じゃ、帰るから」

とだけ言った。

顔をよく見たのはその時が初めてで、濃いアイラインのせいなのか、彼女の目は吸い込まれそうなくらい真っ暗で光一つ映し出されていないようだった。



いかにも笹野が好きそうなギャル系の女の子だったから笹野の彼女かな？って思ったけど、それだったら瀧澤が抱きしめたりもしないし…。


やはり謎のままだった。


彼女が保健室から出ようとすると、瀧澤はすぐに追いかけた。


あたしと笹野も後を追う。


「一人が辛いんなら学校来いよ！」

瀧澤の叫びに彼女は何も答えない。


「おい！待てよ！！」

そう言って瀧澤は彼女の肩を掴むと、彼女はすぐに

「やめてよ！！！」

と、瀧澤の手を振り払った。



「行くわけないじゃん！
そういう友情ごっこが一番嫌いなの！
巻き込まないでよ！」



あたしはその言葉にカチンときた。


「あのさー！
何があったのか知らないけど、リストカットとかださいことしてるやつに友情ごっことか言われたくないんですけど！
死にたいんだったら死ねば！？
本当に本当に死にたいならリストカットくらいじゃなくてこの屋上から飛び降りれば！？
あたしは死ぬ勇気がないくせに死にたい死にたい言ってるやつが一番嫌いだから！！！」



出てしまった。
あたしの、思ったことをすぐに口にしてしまう癖。



彼女は表情一つ変えずあたしを見つめた。


「言われなくても死ぬよ。
それを邪魔したのは千夏ちゃんのお友達。
だから悔しいの。だから悲しいの。」




あれ。
なんであたしの名前知ってるんだろう…。