初恋
第一章 出会い
14歳 夏。




「本当にこんな田舎で一人で住むつもり？
ママは無理よ〜。
なんにもないじゃない。
家政婦さんがいるにしても変なことしないでよ。
問題起こされるなんてたまったもんじゃないからね。
おとなしくしてるのよ。」




隣で母親がぶつぶつ言っている。

これは独り言なのか、それとも結衣に向けた言葉なのか。

結衣は返事一つせず、車窓から自然しかない風景を眺めていた。


「お嬢さんがいなくなって、お母様もさみしくなりますよ。」


運転席から、ママの専属運転手が笑って言っていた。

「うるさいのが一人いなくて楽になるわ〜」






分かってる。
分かってる分かってる分かってる。

結衣はこの人から解放されるためにここまできたのだ。

あんな息苦しい東京にももうこりごりだ。
結衣は普通の幸せが、欲しい。


この町で新しい自分と、普通の生活がしたい。
ただ、それだけ。





田んぼが広がるそこにポツンと不自然に建てられた古びた校舎の前に車は止まった。



「結衣ちゃん、しばらく会えなくなるんですね。
さみしくなります。」


運転手はそう言った。


「東京にたまには遊びにいくから」

結衣は運転手に笑いかけた。



「帰って来なくていいわよ。
勝手にやりなさい。」



なんでこの母親はそういうことしか言えないのか。



「いってきます。」



結衣は、目も合わさずそう言って車から出た。


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