初恋
「ムカついた時はムカつくって言うんだよ」

教室を出ようとした結衣の足が止まった。


「別に!そんなことないから大丈夫!」

「お前、疲れねぇの?
みんなに愛想振りまいて作り笑いしてさ。
俺だったら絶対無理!
一日でギブ!」



「…。」



チャイムが鳴る。

このチャイムは授業終わりの合図なのか授業始まりの合図なのか、それさえ分からない。

とにかくもう行かなきゃ。


教室でマナミが待ってる。
放課後になればタクヤがいる。



でも、行きたくない。

そう、こいつが言うようにまた愛想と作り笑顔をふりまくのはもう疲れたの。



結衣の足は止まっていた。




その時、


「瀧澤ー!!いい加減にしろー!!!」


先生の声が聞こえてきた。



「やべっ」


そいつはそう言って、結衣の手を引っ張り、この部屋のドアを閉めた。



「ちょっと!結衣、授業…」


その男の手が結衣の口を封じる。



「いいから黙って」



何こいつ!!!
強引にもほどがある!





先生の声が聞こえなくなったところで、そいつは手を離してくれた。



「いきなりやめてよー!」

「わりわり!
今さー、先生に追われてんだよ!
それでここに逃げてきたってわけ!
まじ焦ったー!」


また、笑った。




こいつは、作り笑いとかじゃなくて、本物なんだろうな。



「それよりなんでお前みたいなやつ、こんなとこでさぼってんの?」




一人になりたくて。
なんて、言えない。
きっとまたからかわれるだけ。



「でもさー、転校生って疲れるよなー。
俺は転校とかしたことないからわかんねーけどさー、すっげぇ気遣うじゃん。
みんな知らねーやつばっかじゃん?
大変だよなー。」


「なんだ。まともなこと言えるんだね。」


そいつがいきなり真剣な顔するから結衣はついつい笑ってしまった。




「お前、そっちの顔のほーがいいよ」



するとそいつはまた二カッと笑った。



自然と笑ったのは久しぶりだった。
なんだかすごく恥ずかしくなった。


「瀧澤っていうの?」


「おう!よく知ってるじゃん!」


「いや、さっき先生に大声で呼ばれてたじゃん。」


こいつ、バカなのかな。




「俺は瀧澤翔。
おまえと同じクラス。」

「うん、知ってる。
派手だから目立ってるよ」

「それ、褒められてる?」

「違う。(笑)
ふつーにバカっぽいから分かりやすいだけ!」

「目立ち方はお前には負けるよ。
タクヤとの2ショットはさすがにこえーよ。(笑)」

「なんで?」

「男女共にどんだけ失恋したことか。(笑)」

「大袈裟だよ。(笑)」




なんだ、結衣、自然と笑えるじゃん。



「タクヤもてるからなー、女子みんなライバルだな!」

「絶対渡さないからー!
瀧澤にもね!」

「なんだよ!
タクヤのことすっげぇ好きじゃん!
うっぜぇ〜のろけ〜〜〜」






…好き。
好きなの?




「好きって、何?」




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