初恋
一時間ほど走ったんだろう。


人も車も通ってない道を通り抜け着いたのは、



海。





「わぁ…!」


結衣はバイクから飛び降りて、砂浜を走った。



ローファーと靴下を脱いで足をつけた。



「冷た〜い!やばーい!」


結衣がはしゃいでいると瀧澤も靴と靴下を脱ぎズボンの裾を捲り上げ入ってきた。


「お前はしゃぎすぎだろ(笑)」


「だってねー、結衣、海初めて入ったよー!」



「海行ったことねーの?」

「だって東京、海ないもん。」

「でも海くらい遠出してでも行くもんじゃねぇ?
ちっちゃい時とか親に連れてってもらってるよ!お前が覚えてないだけ!」




「結衣の親、普通じゃないから…」



どこかに連れてってもらったことなんて一度もない。
家で顔を合わせるのは月に一度あればいい方。

親との思い出なんて一つもない。



「まあ、俺も普通の親ってわかんねーけどな。」






「え?」








「俺、本当の親会ったことねぇから」




結衣は固まってしまった。



「捨てられたんだー。俺。
今は、引き取られてすっげぇ幸せ。
だから俺を捨てた親にむしろ感謝だよ。
あいつらが俺を捨てなかったら今の家族に出会えなかったわけだし」


そんなことさえ、瀧澤は笑って話すから


結衣、なんて言っていいのか分からなかった。




「そんな深刻そーな顔すんなブス!」


瀧澤はまたケラケラ笑ってた。




「それ、作り笑顔?」


「お前と一緒にすんなよ(笑)」


「でも…」




「ほら見ろ!
上!空!」


瀧澤が空を指差した。





見上げれば眩いほどの星空。




「何これー!!!
ちょーきれいー!!!」


初めてこんなに綺麗なものを見た。





きっと、そうだ。
これが幸せなんだ。





星空を眺めていたら涙が溢れた。

なぜだか分からない。

綺麗すぎて、言葉では表せられないこの感情が溢れ出した。



「何泣いてんだよ。(笑)」

「綺麗すぎて…」


「東京って空見えねーんだろ?」

「空は見えるけど、夜も光が多すぎてこんな綺麗な星空見たことない…」

「空見て泣くやつ、初めて見た(笑)」



瀧澤はまたバカにして、

結衣を抱きしめた。




なぜか分からないけれど、この星空の下、海の中で結衣は声を上げて泣いていた。

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