初恋
神崎結衣は、すぐに教室に馴染んだ。

多少人見知りだったようだが、明るい性格とその容姿で皆魅了されているかのようだった。





神崎結衣が転校してきて一ヶ月。
いつも誰かに囲まれている彼女とあたしが話すことはなかった。

あたしは元々自分から話しかけるようなタイプではなかったし、彼女の周りにはいつも人がいてタイミングがなかった。



瀧澤も同じようなかんじだった。
あんなに盛り上がってたくせに、

「みんなのアイドルを独り占めできねぇよ〜」
なんて冗談を言ったりしていた。



もちろん彼女の男受けの良さも尋常ではなかった。
学校の半分以上の男子が好きになるほどだった。




「すげーな、あいつ。
想像してた以上に。(笑)」

瀧澤がつぶやくと、あたしはなんだか笑えてきた。



「何笑ってんだよ?」


「いや、なんかマンガの世界みたい。(笑)
最近同じような毎日に飽き飽きしてたから、久しぶりにおもしろいよ。」



あたしは何人にも囲まれて笑う神崎結衣を見てそう言った。



「人気者でモテるっていえば千夏のポジションだったのに、さみしくならねーの?(笑)」

確かに、自慢じゃないけど、あたしは誰からの受けも良かった。
あたしは自分のことを愛想を振りまくプロだと思っているから。(笑)

友達が多い自信はあるけど、本音で話せるのは瀧澤くらい。


告白をされても、付き合ったことはない。
笹野のことを諦められずにいるから。



「あんなに可愛くて人気者でお金持ちで完璧なら、なんにも悩みなんてないんだろうなぁ〜」

「でもお前があの子に勝てるもの一つだけあるじゃん。」

「は?何?
また、喧嘩とか言うわけ?
喧嘩なら誰にも負ける気ないけどー。」

「はは。
確かに気の強さは勝てるな。
あと、頭の良さ。」



…は?なんだよ。

「あたしを褒めるなんて瀧澤らしくないじゃん。(笑)」


あたしはベシッと瀧澤を叩いた。


なのに瀧澤は反応一つせず、ただ神崎結衣を眺めていた。



「ぷっ!もしかして本気で好きになっちゃった〜??
瀧澤って面食いなのー?きゃー!」

あたしがからかっても言い返してこない。
瀧澤、なんか変。



「悩みなさそうだけどさー、なんか幸せそうじゃねーよなー。
神崎結衣。
あの皆に振りまく笑顔さえ、作り笑顔に見えるんだけど。
俺だけ?」


なんか、瀧澤らしくない言葉。

「別に?
考えすぎでしょ?」




あたしはまだ知らない。
神崎結衣の実態。



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