淡色ドロップス
「…へえ」
素っ気なく返しても、心臓はあからさまにズキズキと傷んでいた。
何度も味わってきたはずなのに、慣れない痛みが器官全体を襲う。
「こないだ振られたときはもう恋なんて出来ないと思ってたけど、出来た! 全然出来た!」
「あ、そう。ヨカッタナ、オメデトー」
そんな俺の内奥なんて知らない佐伯は今日も無邪気な笑顔で俺に接する。
惚れっぽい佐伯のことだから振られてもすぐに誰かを好きになることはしょっちゅうだ。
そんなのもう、嫌でも慣れた。
だけど未だに理解不能なのは振られても少し時間が経つとすぐにケロッとした顔で俺の部屋に上がるその態度だ。
幼馴染みといえど、男の部屋に軽々と入る佐伯がムカつく。
「どうしよう、向こうもあたしのこと好きだったらどうしよう?!」
「安心しろ佐伯。
その確率はゼロに等しい」
こうやって好きな輩のことを俺になんてことない顔で話す佐伯がムカつく。
「そんなことないよ! あたし次こそはイケそうな気がするっ」
「…ふーん。
そいつの何処に惚れたの」
「資料室に持っていく荷物を偶然通りかかったその人が半分持ってくれたその紳士的な行動に、です!」
下らない理由ですぐに人を好きになる無垢な佐伯が、ムカつく。