淡色ドロップス





半分滲んだ視界で見上げると大学生らしき男の人とサラリーマンが言い争っている。


「なんで降りなきゃいけないのか自分が一番よく分かってますよね」

「はあ、?! 俺じゃねえよ! 俺はなんもやってねえ!!」

『え、なに?』

『なんかあのサラリーマンが痴漢したっぽいよ』

『やだー相手の子かわいそ…』

『つーか、あの大学生、翠がいつもカッコいいって騒いでた人じゃない?』



一気に騒々しさを増した車内。

抵抗するサラリーマンを周りにいた男性が取り押さえる。わたしはその光景を呆然と見ていた。


そうこうしているうちに次の駅へと電車は止まり、サラリーマンは降ろされる。

続いて大学生が降りて行くのが薄っすら見えて、わたしは慌ててその後を追う。


プシュー、と音と共に扉が閉まる。





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