あの日、言いたかったこと。

「あ……」


突然、悠斗が向こうの方を見ながら声を出した。


「どうした?」

「いや……花が……」

「花?」


俺も同じ方を見ると、ちょうど横断歩道を渡りきったところの端に花が置かれていた。


「杏かな……。
アイツ、昨日墓参りに行ったんだろ?」

「らしいけど……」

「俺達も置こうぜ」


そう言いながら、俺はその花の隣に俺達が買った花を置いた。

そして……そっと手を合わせて、目を瞑る。


……目を瞑ると蘇ってくる、あの瞬間。

今でも……鮮明に覚えている。

忘れられるわけがないんだ……。


『ヒナ!』


アイツの笑顔

アイツの声

アイツの優しさ


そして……最後に聞いた、切羽詰まったような叫び声も……

全部……全部、忘れられない。


「……日向」


悠斗はそろそろ行くぞ、とでも言うような視線を俺に投げた。


「……あぁ」


……七年振りにまともに見たこの横断歩道。

そこはあの日とは違い、車の通りも少なく……とても静かだった。

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