社内恋愛のススメ



雨は、まだ止んでいないらしい。



嫌だな、何か。


誰もいない部屋。

物音1つしない部屋。


そのはずだった。



トントントン。


雨音よりも、ほんの少しだけ近くで聞こえる音。

雨音とは違う音。

久しぶりに聞くその音は、キッチンの方から。



実家ならば有り得るけれど、ここは実家じゃない。

私が1人で住んでいる、1人暮らしのマンションだ。


私の他に、誰かがいるはずがない。

そう、怪しい人物でなければ。



(ま、まさか………泥棒とか。)


7階だからといって、安心していたのは確か。

セキュリティがしっかりしているから、その安心を理由にあぐらをかいていたのだ。



どうしよう。

どうしよう。


こんな体調が悪い時に、泥棒に入られるなんて。


ツイていないどころの話じゃない。

最悪だ。



(こんなふらつくのに、………私、捕まえられる?)


おそらく、無理だ。

普段ならばともかく、今のこの状態では逃げることすら難しいはず。



逃げられるなら、まだいい。

襲われてしまったら、どうしよう。


想像するだけで、寒気がする。

それでなくても、熱のせいで寒くて堪らないのに。



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