社内恋愛のススメ



大人しく、警察に通報した方が無難なのだろうか。



(あ………。)


通報したいのはやまやまなのだけれど、私はその手段を持っていない。


携帯電話は、会社のデスクの上。

私は携帯電話すら持たず、会社を飛び出してきてしまったのだから。



(本当にどうしよう………。)


戸惑う私の耳に響いたのは、聞き慣れた声。

上から優しく降る声は、いつも隣のデスクから聞こえてくる人のものだった。





「起きたのか?」


この声は。

この声の主は、………長友くん。



「おい、有沢………?」


その呼びかけに、私はパッと目を開ける。

そこにいたのは、予想していた通りの人。


長友くん。

長友くんがいる。


何故か、私の部屋に長友くんが立っていた。



「は?」


ぼんやりしていた意識が、急速に覚醒していく。


頭の中は、ハテナだらけ。

だって、不思議でしょうがない。



「な、な、何で、長友くんがここにいる………の?」


長友くんはワイシャツの袖を捲り上げ、キッチンに立っている。

そう、何故か、我が家のキッチンに。


脱いだジャケットが、ソファーの上に置かれていて。

ソファーのずっと向こうに、額に滲んだ汗を拭う、長友くんの姿が見えた。



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