社内恋愛のススメ
「何でって、………はぁ。」
大きく溜め息をついた、長友くん。
人の顔を見て、溜め息をつくのは止めて欲しい。
思わず、顔をしかめる私。
長友くんの手が、私の方へ伸びてくる。
少しだけ身構えてしまった私のおでこに押し付けられた、長友くんの大きな手。
ゴツゴツとした、骨っぽい手。
唸った様な声を出した後、長友くんはこう言った。
「んー、やっぱ熱は下がらないか。飲むもん飲まなきゃ、下がる訳ないよな。」
独り言みたいにそう言って、長友くんが再びキッチンに消えていく。
キッチンに消えていく長友くんの背中を見つめながら、私はゆっくりと記憶の糸を手繰り寄せていた。
(えーっと、確か………雨の中、会社を飛び出して。)
何にも持たないまま、マンションに辿り着いて。
マンションまで来たのはいいけれど、そこでようやく鍵がないことに気が付いたんだ。
たまたま通りかかった管理会社の人に、無理を言って部屋の鍵を開けてもらって。
あれ?
その後は、どうしたんだろう。
1回寝て、1回起きて。
その後の記憶は、プッツリと途切れてしまっている。
ベッドから離れた場所で倒れた気がするのに、私はどうしてここにいるんだろう。
どうして、ベッドの上に寝ているのだろう。
その答えは、長友くんが教えてくれた。