社内恋愛のススメ
「鍵、開いてたけど。不用心な女だな………。」
「………っ。」
そうだったのだろうか。
それどころではなかったから、よく覚えていないというのが事実。
「お前、床で寝てたんだぜ。寝るなら、せめてベッドで寝ろって。」
呆れた様に長友くんはそう言って、キッチンでガチャガチャと派手に音を立てている。
「う………。」
いや、別に好きで床で寝てた訳ではないのだけれど。
ベッドに辿り着く前に、床で倒れたのだけれど。
床で寝ていたことは事実なだけに、いつもみたいに言い返せない。
キッチンから戻ってきた長友くんの手には、四角いお盆。
お盆の上には、小さな土鍋と取り皿が乗せられていた。
「ほら、食えよ。」
長友くんはぶっきらぼうにそう告げ、土鍋が乗るお盆を床の上に1度置く。
「え?う、うん………。」
事態が飲み込めないまま、私は体を起こそうとする。
そんな私を支える為に、長友くんがそっと手を貸してくれた。
ドキン。
一瞬だけ跳び跳ねる、私の弱った心臓。
思ったよりと近くにある、長友くんの顔。
(ち、近い………!!)
何年も隣で仕事をしてきたけれど、長友くんとこんなに近付いたことはない。
間近で見たことがなかったからこそ、その表情こ変化に驚いた。
心配そうに下がった眉は、意外と手入れが行き届いている。
丸くて、つぶらな瞳。
その瞳に宿るのは、純粋な色。
長友くんそのものを表す、そんな目。
引き締まった頬に、焼けた小麦色の肌。
ダークブラウンの短い髪。