社内恋愛のススメ



どうして。

どうして。


今更なのに、ドキッとしてしまうのだろう。



(熱のせいだ………、きっと。)


そうに違いない。

そうでなければ、おかしい。


だって、私が好きなのは上条さん。

ずっと憧れていたのは、上条さんだ。



倒れる前だって、彼のことを想って泣いた。

雨が降る中で、1人きりで泣いていたのだ。


長友くんじゃない。



ずっと憧れていて。

やっと、恋人になれて。


そして、あっさり私を捨てた人。

私ではない人を選んだ、あの人。



(来るはずないって、分かってるのに………。)


追いかけて来てくれるはずがないと、分かっていたのに。


来てくれない。

あの人は、私の所にはもう来ない。


私じゃない人を選んだのだから。



密かに落ち込む私に差し出されたのは、小さなレンゲ。

レンゲの上には、炊き立ての真っ白なお粥。


レンゲを差し出した長友くんは、強気な態度でこう言った。



「さっさと食って、薬飲め!」

「………。」


ずっと気になっていたのだけれど、このお粥、誰が作ったのだろう。



私ではない。


あんなにフラフラしていた私が、こんな料理を作れるとは到底思えない。

キッチンに立って、料理をした記憶もないし。



そうなると、残る人物はただ1人。


もしかして。

もしかしなくても、長友くん?



< 110 / 464 >

この作品をシェア

pagetop