社内恋愛のススメ



思わず向けてしまったのは、怪しい視線。


ムッとした顔の長友くんは、こう叫んだ。



「何だよ、その目!」

「いや、だって………これ、長友くんが作ったの?」


訝しげにそう聞く私に、長友くんが憤る。

胸を張って、それはもう分かりやすいリアクション。



「当たり前だろ。他に、誰が作るんだよ?」

「そ、それはそうだけど………。」

「感謝しろよ。」


最後の『感謝しろよ』って言葉が、長友くんらしくて笑える。



凍り付いていた心。

ボロボロに傷付いて、崩れかけていた心。


凍り付いていた心が、解けていく。

崩れかけていた心が、立ち上がる。



どうしてかな?

変なの。


相手は、あの長友くんなのにね。



「あーん………」


調子に乗ると、すぐこれだ。

油断も隙も、ありはしない。


ニヤニヤとからかいながらレンゲを向ける長友くんを、一発殴っておく。



少し寝たせいなのか。

それとも、長友くんのお陰なのか。


ふざける長友くんを殴るくらいの体力は、戻ってきていたらしい。



「いってぇ!」

「病人相手に、バカなことしないで!」


からかうのも、大概にして欲しい。

元気な時ならばともかく、今は弱りきっている時だ。


『あーん』とか言いながら食べさせてもらうなんて、バカにされてるとしか思えない。


ダメだ。

体調が悪いのに、つい手が出てしまう。



「………いただきまーす。」

一応そう言ってから、私はレンゲを口に運んだ。



口に入れた瞬間、フンワリとしたお米の優しい味が広がる。

柔らかく炊かれたお粥は、ほんのり塩が効いていて美味しい。


控えめなその味が、私の胃を包み込む。



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