社内恋愛のススメ
『上条さんへ。
大事なお話があります。
お時間頂けませんか?
仕事が終わったら、駅前の喫茶店に来て下さい。
いつまででも待ってます。
遅くなっても構わないので、お願いします。』
何度も考えた文章は、想像していたよりもすんなり打つことが出来た。
電話ではなくて、メールにしたのは理由がある。
電話で約束を取り付けないのは、隣に文香さんがいたら困るから。
大切なあの人を、困らせたくないから。
メールだったら、いつでも見られる。
電話はならば声で相手が女だとバレてしまうかもしれないけれど、メールならばその可能性も少ない。
よほど疑い深くない限り、婚約者のメールまでいちいちチェックしないだろう。
やましいことなんて、何もない。
私と上条さんは、付き合っていたのだ。
少なくとも、文香さんが現れるまでは。
気を遣うのは、文香さんに対して、ほんのわずかでも罪悪感があるからかもしれない。
どっちが先かは、分からない。
私と付き合い始めたのが、先なのか。
それとも、文香さんと婚約したのが先だったのか。
それは、上条さんしか知り得ないこと。
しかし、今となっては、きっと同じなのだ。
婚約者がいる人と、深い関係にある。
そのことは変えられないのだから。