社内恋愛のススメ
(上条さんと文香さんが、もし本当に婚約するなら………私、もう気軽に話しかけたりなんか出来ない。)
会社でなんか、こんな話は出来なくなる。
人の目がある。
誰に聞かれているか分からない場所で、大切な話なんか出来るはずがない。
だから、メールという手段を選んだのだ。
「よし!」
気合いを入れる為に、私は強く頬を叩く。
鏡の前の自分は、ちょっとだけ緊張で強張った顔をしている。
いつもよりも丁寧なメイクは、上条さんに対する気持ちの表れ。
好きな人の前では、綺麗な自分でいたい。
綺麗な私を、記憶の中に残しておいて欲しいから。
全身をくまなくチェックしてから、私はマンションを後にした。
今日も、いつも通りに仕事が始まる。
どんな時でも、仕事だけは山の様にある。
休んでいた分だけ、私にはやらなければいけない仕事が溜まっているのだ。
「おっ、有沢。もう平気なの?」
出社するなり、私の顔を見てそう言う長友くん。
私をからかう時の顔ではない。
無邪気な笑顔は成りを潜め、その代わりに心配そうに私をじっと見つめている。
私が熱でうなされている間、ずっと傍にいてくれた。
疲れているのに、ずっと私の面倒を見てくれていた。
本当にいいヤツ。
だから、コイツの隣で仕事をしていきたいと思えるんだ。