社内恋愛のススメ
どうして。
どうして、こんなに胸が痛むの?
ただ、思い浮かべただけなのに。
結婚に焦っているから………?
そんなはずない。
だって、私は結婚自体を現実的に考えられないのだから。
それじゃあ、どうして。
まさか、長友くんのことが好き………?
そんなの、有り得ない。
有り得ないよ。
相手は、あの長友くんだ。
いつも隣で、バカ騒ぎしている長友くんだよ?
それに、私は上条さんと別れたばかり。
さよならしたばかりだ。
上条さんのことを完全に忘れたかと問われたら、私はきっと答えられない。
首を、縦に振れない。
まだ早過ぎる。
上条さんのことをちゃんと忘れてもいないのに、先になんて進めない。
次の恋なんて、まだ出来ない。
したくない。
(それなのに、どうして………。)
新しい恋なんて、したくないよ。
前になんて、進みたくないよ。
今は、今はまだ………このままでいたいのに。
考え込む私は、ずっとぼんやりしていて。
ロビーの隅にある人影に気が付いたのは、随分近付いてから。
その人影が、私の前に飛び出してきてからだった。
「………!!」
嘘。
嘘だ。
そう呟きたかったのに、声が出ない。
本当に驚いている時は、声なんて出て来ないのだ。
初めて、そのことを思い知る。