社内恋愛のススメ



(ち、近付かないで………。)


それ以上、私に近付かないで。


近付かれても、私にはどうにも出来ない。

どうにもならないんだから。



必死に抑えていた、悲しい気持ち。

仕事にがむしゃらに打ち込むことでしか忘れられなかった、切なさ。


この1ヶ月、頑張ってきたんだよ。

これでも、私なりに努力してきたつもりだったんだよ。



忘れよう。

上条さんのことは忘れようって、ずっと。


その努力が報われているかどうかは、別として。



私のこの1ヶ月の努力を、無駄にしないで。

私の頑張りを踏みにじらないで。


お願い。

お願いだから。


しかし、私のそんな小さな願いは、上条さんには届かなかった。




いつまでも、逃げられる訳じゃない。


トンッと音を立てて、背中に固い壁がぶつかる。

ひんやりとした壁の冷たさが、背中からじんわりと体に伝わっていく。



すぐ目の前には、上条さんの顔。

大好きだった人の顔。


冷たい光を放つ瞳から、目が離せない。



「実和、話があるんだ。」


そう言った上条さんの瞳が、グラリと揺れる。


上条さんのその瞳に飲み込まれない様に、懸命に構えて。

流されない様に、耐えて。


冷静に、出来るだけ醒めた声でこう答えた。



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