社内恋愛のススメ
息を切らせている様子もない。
突然現れた長友くんが、この場で1番平静さを保っている。
丁寧な言い方ながらも、長友くんは上条さんに対して攻撃的な言葉をぶつけていた。
「有沢、困ってますよ。こんな所で引き止めて、上条さんは一体何をしてるんですか?」
私を庇う様にして立つ長友くんの顔は、私の位置からは見えない。
どんな表情で、その言葉を言っているの?
ピリピリと殺気立っているから、笑顔ではないことだけは確かだけど。
(長友くんが怒ってるなんて………珍しい。)
その背中を見つめながら、ふと思う。
長友くんは、よっぽどのことがない限り
怒らない人。
ふざけ過ぎて怒られてしまうことはあっても、自分から怒ることは滅多にない。
会社で揉めごとを起こすのは面倒だと、いつも言っていたから。
笑っていた方が、仕事だってやりやすい。
私に、そう言っていた。
空気が読めて世渡り上手な長友くんは、誰からも好かれる存在。
そんな長友くんが、誰かに食ってかかるなんて。
よりによって、上司である上条さんに食ってかかるなんて。
長友くんの言葉に、上条さんの顔がわずかに歪む。
鉄仮面。
そう言われるくらい、揺らがない上条さん。
そんな上条さんの顔から、わずかに感情が滲むのが分かった。