社内恋愛のススメ



「………、君には関係ないだろう!」


何も知らない上条さんは、そう返すのがやっと。



だけど、私は知ってる。


長友くんが、私と上条さんの関係に気付いていたことを。

私達の秘密の恋を知っていたことを。


だからこそ、ここにいる。

ここで、私の前に立っている。



張り詰めた空気が、静かなロビーを支配していく。



「有沢が嫌がってるの、分かりませんか?」

「何もしていない。君は、何か勘違いをしていないか?」

「別に、………見たままを言っただけです。」


見えない火花が、2人の間で散る。



上条さんの目から滲む、青い炎。

長友くんの背中から感じる、燃えたぎる赤い炎。


永遠に続く様に思える、やり取り。


2人の応酬を止めたのは、私だった。


「長友くん、止めて………。」


まずは長友くんにそう言い、長友くんの体を横に押し退ける。



この問題に、長友くんは関係ないから。


これは、私と上条さんの問題。

何の関係もない長友くんを、巻き込む訳にはいかないんだ。



私が。

私が言わなきゃ。

私がケリを付けなきゃ。


そうでなければ、上条さんだって納得してくれない。



「上条さん。」


目を見て。

顔を見て、言わなきゃ。


逃げちゃ、ダメだ。


自分で決めたことじゃない。


「私達は、ただの上司と部下です。それ以上でも、それ以下でもない。」


そう。

私達は、上司と部下。


ただ、それだけ。


少し前までは甘い関係だったけれど、今は違うんだ。



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