社内恋愛のススメ
私は、1人になった。
そして、上条さんには、文香さんという素敵な婚約者がいる。
違う道を選んだ、私と上条さん。
私達が選んだ未来が交わることは、決してない。
これは、自分で決めたことだから。
どんなに悔やんでも、悩んでも引き返さない。
引き返せない。
「思い出は、綺麗なまま………残ります。」
楽しかったこと。
嬉しかったこと。
あなたの言葉も、全部。
「だから、こんな風に私の思い出を汚さないで下さい………。」
最後に小さな声で、そう付け加える。
嫌いになりたくない。
最後に嫌な記憶しか残らないなんて、悲し過ぎる。
さよならを選んだのは、自分の為。
上条さんの為。
みんなの為。
笑って思い出せる、そんな過去にしたかったから。
グッと、長友くんの腕を強引に引っ張り、ロビーを突っ切っていく。
押し寄せる感情の波には、気が付かないフリをして。
私は上条さんの前から、姿を消した。
「おい!」
「………。」
「おい、有沢!」
オフィス街を颯爽と歩く私に、引きずられていく長友くん。
無言の私を、長友くんを呼び止める。
「おい!」
何度目かのその呼びかけに、私はようやく足を止めた。
「あ、………ごめん。」
私は何に対して、謝りたかったんだろう。
変な場面を見られてしまったこと?
それとも、こんな場所まで引っ張ってきてしまったこと?
どっちなのだろう。
多分、どっちもかな。
「いや、別にいいけどさ。」
深く聞かない所が、長友くんらしい。
長友くんは分かってるんだ。
今の私が、上条さんについてのことに触れて欲しくないのだと。
何も聞かないでいて欲しいのだと。
長友くんは、誰よりも空気を読むから。
誰よりも、人の心を読み取ってくれる人だから。
私は長友くんのそんな所に、いつも助けられているのかもしれない。