社内恋愛のススメ



(うーん、平和だなぁ………。)


ほんの20分前まで、修羅場にいただなんて思えない。

それほど、いつも通りの光景。


週末で、長友くんが目の前にいて。

行き慣れた居酒屋で、テーブルを挟んで座ってる。



あれから、長友くんも何も言わない。

私も、上条さんのことには触れないでいる。


しかし、私達の間に流れる空気は、いつもと変わらないもの。



何もなかったのかな。

そう、錯覚してしまいそうになる。



「………。」


相変わらず無言で、メニューを食い入る様に見つめる長友くん。


何かに夢中になってる長友くんって、本当に子供みたいだ。



やんちゃで。

無邪気で。

だけど、どこか純粋で。


外見は立派なサラリーマンだけど、中身は小学生っぽい。



長友くんを見ていると、不思議と心が和むんだ。


どうしてだろう。

変なの。


でも、落ち着く。

長友くんの隣は、居心地がいい。



「何、見てんの?」

「べ、別に見てない!」

「いーや、見てた。俺の顔、じーっと見てた。」

「見てないって。自意識過剰じゃない!?」

「うるさい!ほら、さっさと頼むぞ。」


目が合った瞬間、ちょっとだけドキッとしたのは内緒。

絶対、本人には内緒。



深い意味なんてないから。

きっとないはずだから。


いきなり目が合ったから、戸惑ってしまっただけ。

そう、それだけだ。



ほんの少しのドキドキは、いつもの喧嘩みたいなやり取りの中に掻き消されていく。


注文した物が届いてすぐ、お互いのグラスを軽くぶつけ合った。






「かんぱーい!」

「今週もお疲れー!!」


コツンと、小気味いい音が、心地良く耳に響く。

テーブルの上には、美味しそうな料理。



< 161 / 464 >

この作品をシェア

pagetop