社内恋愛のススメ



久しぶりに、笑顔になれた。

心から笑えた。



2人きりになっても緊張しないのは、相手が長友くんだから。

入社以来、ずっと隣で仕事をしてきた、長友くんだから。


上条さん相手なら、私はもっとガチガチに緊張してしまうだろう。



気を抜ける、この距離感がちょうどいい。

男を感じない、この距離がいいんだ。


長友くんと話して改めて知ったのは、お互いに特定の相手がいないこと。





「なー、有沢。」

「ん?」

「有沢は、新しい男、作んないの?お前、上条主任と別れたんだろ?」


ほろ酔いの長友くんが、そう聞く。

素面じゃ聞かないその問いは、酒に酔っているからこそ聞いたことなのかもしれない。



ほんのり赤く染まった頬。

微かに潤んだ目。


その変化は、長友くんを実年齢よりも幼く見せる。


私は素っ気なく、こう答えた。



「新しい男………か。」


新しい男。

上条さんを忘れて、別の人と付き合う。


いつか訪れるであろうその日を、頭に思い浮かべる。



しかし、頭の中は真っ白なまま。


何も思い浮かべられない。



「当分、作る気ないかな。仕事が忙しくて、そんな暇もないし。」


強がりじゃない。

これは、本音。


上条さんと別れたばかりの今は、新しい相手を探し求める気にはどうしてもなれない。



< 164 / 464 >

この作品をシェア

pagetop