社内恋愛のススメ



訳の分からない苛立ちを抱えた私は、とりあえずビールを1杯。

アルコールを流し込んで、この名前も分からない感情までどこかに流し込んでしまいたい。


ビールを煽る私に、長友くんはこう告げた。



「結婚したいなとは思うけど、付き合ってる訳じゃないし。」

「え?」


長友くんのその言葉に、私は目を丸くする。



(結婚したいのに、まだ付き合ってない………?)


それって、どうなの?

プロポーズ以前の問題なのではないか。



結婚というのは、人生を変える一大事。

たった1度きりの人生で、そう何回も訪れる節目でもない。


それなのに。



お見合いでもなければ、結婚するにはまずその人と付き合ったり何なりするはずだ。


告白して。

付き合って、その人のことをよく知って。


ずっと一緒にいたいと思うから、結婚という決断をするんじゃないの?

未来を誓うって、そういうものじゃないの?


呆れて物も言えない私が、冷ややかな眼差しで長友くんを見たのは言うまでもない。



「な、何だよ、その目は!」

「いや、だって………いきなり結婚出来る訳ないでしょ!バカじゃないの!?」


当たり前の突っ込みをすれば、長友くんはムッとした顔。



「………しょうがないだろ!」


長友くんの感情が手に取る様に分かって、それが面白い。



「別に、お前には関係ない。何、お前、気になるの?」


ムキになって反論していた長友くんが、今度は逆に私のことをからかい出す。


そう言われると、何も言えない。

言い返せなくなってしまう。



気になるといえば、気になる。

全く関心がないと言ったら、それは真っ赤な嘘になる。


長友くんのことが気になる。

気になっている。


その理由が分からないから、自分でも困ってるのに。



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