社内恋愛のススメ
「ま、いっか。とりあえず、飲もうぜ!」
さっきまで私をからかっていたクセに、長友くんはコロッと態度を変えて、そう誘う。
その誘いを断る理由は、私にはない。
「かんぱーい!」
「おー!!」
珍しく恋愛話を交えながら、夜が更けていく。
私と長友くんの、2人きりの夜が更けていく。
チュンチュン。
あー、うるさい。
お願いだから、もうちょっとだけ静かにしてよ。
小鳥のさえずりが、どうしても爽やかに聞こえない。
爽やかであるはずの声が、苦痛に感じる。
その理由は、頭が割れる様に痛いから。
鐘の音が、頭の中で大音量で鳴り響いている。
ガンガンと、絶え間なく。
(あー、飲み過ぎた………。)
ヤバい。
完全に二日酔いだよ。
痛む頭を押さえながら、記憶の糸を必死に手繰り寄せる。
確か、金曜日の夜、長友くんと残業していた。
いつもの様に、長友くんと2人で残っていた。
一足先に仕事を終えた私は、長友くんよりも先に帰ろうとして。
そんな時、あの人に捕まってしまった。
あの人。
上条さん。
私の入社当時の教育係で、憧れの人。
ずっと憧れていた人。
やっと手が届いたと思ったら、私のことなんてあっさりと裏切ってくれた。
私じゃない人を選んだ。
私じゃない人と結婚しようとしていた。
(そうだ………。)
困っていたら、長友くんが助けてくれたんだ。
まだ仕事をしていたはずの長友くんが、私のことを助けてくれた。