社内恋愛のススメ
足を伸ばしたその時、ドンと、私の足に何かがぶつかった。
「いってぇ………。」
ぶつかった瞬間に聞こえたのは、寝起きの低い声。
掠れたその声は、私のものではない。
私なんかよりも、ずっと低い。
そう、男の人の声。
「は!?」
その低い声を聞いて、私の意識は一気に覚醒した。
目を開けた先に広がっていたのは、見慣れぬ部屋。
黒とグレーで染まった世界。
暗いトーンで統一された家具。
床に雑然と積まれた雑誌は、今にも崩れ落ちそう。
見たことのない部屋。
来たことのない部屋。
間違いなく、私のマンションじゃない。
寝ぼけていても、そのくらいのことはすぐに分かる。
自分のマンションで寝ていると、そう思っていたのに。
まさか、見知らぬ部屋で寝ていたなんて。
(ここ、どこ!?)
私、何してるの?
酔っ払って、知らない部屋で寝ちゃうなんて。
この年になって、そんな失態をしてしまうなんて。
すぐには信じられない状況に、パニックに陥る私。
信じられない。
信じたくない。
嘘だ。
誰か、嘘だと言って。
突然、横から伸びてきた手に、パニックの私は気付かない。
グイッと強い力で引っ張られて、布団の中に引きずり込まれる。
私の体は引き寄せられ、誰かの腕の中にすっぽり収まってしまった。
「んー………。」
眠そうな声が、真上から聞こえる。
私の耳元近くで、囁くみたいに。
「へ?」
恐る恐る、見上げた先。
フカフカの布団の中。
今までにないほど近い位置に、長友くんの顔を見つけた。