社内恋愛のススメ



私の真上にある、長友くんの顔。


ほんの数時間前まで、一緒にお酒を飲んでいたその人。

眠そうに目を擦る長友くんの視線は、未だ宙を彷煌ったまま。


まだ寝ぼけているらしい長友くんの腕の中に、私は閉じ込められていた。



「な、な、な………何で?」


アルコールが抜けきっていないのだろうか。

頬が、異常に熱を保つ。


頬だけじゃない。

体中が火照って、熱くて。


追い打ちをかける様に、心臓が早鐘を打つ。



ドクン。


あぁ、うるさい。

うるさいって。


早く治まれ、この心音。



ドクン、ドクン。


うるさいってば。

うるさいってば、もう。



おかしいよ。

おかしいじゃない。


どうして、長友くんにドキドキしているのだろう。

長友くん相手に、ドキドキしなくちゃいけないの?



ドキドキなんかしてない。

そんな訳ない。

そんなの、おかしい。


私が好きなのは、上条さん。

好きだったのは、上条さん。


長友くんじゃない。



寝ぼけてるだけだ。

ただ寝ぼけて、抱き締められているだけ。



「あー、もう!!」


どうにもならない、この状況。

治まろうともしない、心音。


堪りかねた私は、強行策に打って出る。


ドカッと、私は勢い余って、長友くんの体を蹴り飛ばしてしまった。





「はぁ………。」


ようやく解放された私の口からは、安堵の溜め息。


心臓に悪い。

ほんと、心臓に悪い男だ。



こんなことされたら、寿命が何年あっても足りない。

どんどん縮んでいってしまう。



(うわぁ!)


とにかく、驚いた。

ビックリした。



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