社内恋愛のススメ
「俺は、結婚………したいけどね。」
長友くんのあの言葉。
同期入社で、同い年の長友くん。
いつも隣で、机を並べて仕事をして。
私と同じく、異性との噂なんてまるでなかった。
そんな長友くんが言った結婚という言葉は、私の心に少なからず変化の風をもたらした。
どうしても、結婚したい訳じゃない。
周りの同年代の女の人みたいに、結婚に焦りを感じたことなんてない。
だけど、どうしても結婚したくないという訳でもない。
そこまで結婚したくないと、意固地になってもいないのだ。
ただ、思い浮かばないだけ。
結婚している自分というのが、想像出来ないだけ。
長友くんがそれほど望む結婚とは、どんなもの?
どんな感じなのだろう。
少しだけ、興味が湧いた。
まぁ、興味が湧いても、どうなるものでもない。
現に、私にはそんな相手もいないことだし。
何かが変わるという訳でもない。
変わらない日常。
そして、微妙に変わりゆく心。
お盆休みが明けた今、準備していたプロジェクトが始まろうとしていた。
「みんな、話があるから、会議室に集まってくれないか。」
お盆休みが明けて、初めての出勤日。
企画部のフロアで、部長がそう告げる。
お酒が入れば、絡み癖のあるおじさん。
新入社員にべったりくっ付いて、周囲の人間を困らせるのが趣味の宴会部長。
そんな人だけど、仕事となればまるで別人。
見事に、仕事モードにスイッチが切り替わっている。