社内恋愛のススメ
力なく、ようやく立っているだけの長友くん。
頭が痛いのか、たまにおでこに手を当てている。
全く。
子供じゃないんだから、次の日のことを考えて飲めばいいのに。
さすがにアルコールの匂いはしないけれど、体調が芳しくないのは一目瞭然。
いつもはワックスで無造作に立てられている、ダークブラウンの短い髪。
その髪もちょこんとへたれているから、何だか笑える。
「うるせえ………。頭に響くから、大きい声出すなって!」
飲み過ぎたんだ。
そうじゃなければ、酔っ払って私に電話なんかしてこないだろう。
しょうがないヤツ。
悪いヤツじゃないんだけどね。
むしろ、結構いいヤツだったりするんだけれど。
「あのさー、次の日が仕事って分かってるんだから、もっと考えて飲みなよ。」
「うーー……。」
「いい年した大人なんだから!」
私がそう言えば、ムッとした長友くんがこう切り返す。
「分かってるって。説教すんなよ、有沢。」
本当に分かってるのかな?
前にも、似た様なこと、言った気がするけど。
そんな会話をしていたら、あっという間に私達が働くフロアに着いてしまった。
「おはようございまーす!」
「…………おはようごさいます。」
私と長友くんが勤めているのは、商社。
配属先は、企画部。
新しい商品の元となる物を考えたり、イベントを企画したりする部署。
ジャンルはいろいろなのだけれど、だからこそ多岐に渡る業務内容。
社内で1番多忙だと、そう噂される部署。
だけど、どの部署よりも、やり甲斐がある場所なのだと思う。
入り口近くにあるデスクが、私の戦場。
入社当時から、ずっと私はこの場所で戦っている。
隣のデスクは、長友くんの席。
長友くんのデスクは、酷い有り様。
乱雑に積み重ねられたファイルが、デスクを占拠している。
今にも、ファイルの山が崩れ落ちそう。
長友くんらしい、そんなデスク。