社内恋愛のススメ
ふと視線を送ると、デスクに座る長友くんの姿が目に映る。
デスクに着いた長友くんは、先ほどとは比べられないほど、変わっていた。
「うわっ、さっきとは別人じゃない?」
わざと嫌味をぶつけて、長友くんの反応を見る。
長友くんは、これでも同期の中では出世頭。
同期の中で次に昇進するのは、長友くんだと囁かれている人。
二日酔いだろうが、仕事となれば手は抜かない。
だからこそ、隣にデスクを並べていて、胸を張れる。
背中を預けるなら、この男しかいないんだとそう思わせてくれるヤツ。
「うっさい。」
私の嫌味に、一言。
ギロリと睨めば、長友くんが涼しげな顔で言う。
「お前だって、昨日とは別人じゃん。」
長友くんはそう言って、前髪を片手で掴んでちょんまげを結う素振りをする。
憎まれ口を叩きながら、早速仕事に取りかかる長友くん。
背筋はピンと伸び、凛々しい。
さっきまでの二日酔い男は、どこに行ったのだろうか。
だらしなく見えていたのに、今は何故か格好良く見えてしまうから不思議だ。
格好いいとは言っても、恋愛感情は湧かない。
私と長友くんの間に、そういう甘い雰囲気が流れたことなんて1度もない。
付き合いが長いせいかな?
長友くんに負けまいと、私もデスクにかじり付く。
これが、私の日常。
27歳になった、私の毎日。
恋愛なんて、縁遠い。
結婚の予定、もちろんなし。
最近、ちょっとだけお局様に近付きつつある。
お局様に近付くのは嫌だけれど、仕事は楽しい。
寿退社の予定、なし。
そんな日が来るのかどうかさえ、怪しい。
そんなありふれた日常を送っていた私の恋が、この日を境に動き出そうとしていた。