社内恋愛のススメ
「おー、おはよう!」
片手を上げて、中年の男性が企画部の入っているフロアにやって来る。
この男性は、企画部の部長。
私と長友くんが配属されている、この企画部で1番上の立場にいる人間。
いつも笑顔が絶えない人。
だから、誰にでも好かれるのだ。
飲み会のお誘いも断わらない。
率先して飲み会を開こうとするこの人は、酒が入れば宴会部長に変身するお方。
笑い上戸。
泣き上戸。
絡み酒が得意な部長。
そんな部長の後ろに立つ、1つの大きな人影。
その人影を見た瞬間、私の中を流れる時間が止まった。
確かに一瞬だけ、止まった気がした。
ドクン。
心臓が一際大きく、飛び跳ねる。
ガラにもなく、ドキドキしてる。
こんなにドキドキしているのは、何年振りだろう。
スローモーションみたいに動く、その人影。
ゆっくりフロアを見回したその人と、視線がぶつかる。
視線が合った、その時。
わずかに、その人の眉がピクリと動いた。
「今日からこの企画部に配属された、上条くんだ。以前にもこの企画部にいたから、知っている者も多いだろうが………。」
部長が身振り手振りを交えて、長身のその人物を紹介する。
だけど、そんなの、よく知ってる。
知ってるんだよ、私。
だって、ずっと見てきた人だから。
一目見た瞬間に、分かってしまった。