社内恋愛のススメ



最近は、上条さんに近付くこともなかったから。


同じプロジェクトに関わる人間。

しかし、上条さんのことは避けていた。

気を遣っていた。



なるべく、近くに行かない様に。

隣の席に座らない様に。


ピンと気を張って、息を抜く暇さえないほど。



憧れていた過去。

付き合っていたあの頃は、幸せだった。


会社の中では、秘密の関係。

誰にも言わない関係だったけど、悲しくはなかった。



上条さんの彼女。


その立場が嬉しくて。

やっと手に入れたその立場が、ただただ嬉しくて。


幸せだった。

それだけで良かったんだ。


ずっと憧れていた人だったから。



(だけど、今はもう………。)


ドキドキもしない。

ときめいたりもしない。


付き合っていた頃は、あんなにも上条さんにドキドキしていたのに。

ときめいていたのに。



上条さんの言葉1つで、雲みたいに舞い上がって。

上条さんの言葉1つで、逆に地まで落ちて。


良くも悪くも、全てがこの人中心だった。

私の小さな世界は、上条さんを中心に回っていたんだ。



それなのに、今は何とも思わない。

全く何とも思わないと言えば、それは嘘になるけれど。


よぎる思い出に、胸が痛むことはある。

ありもしない未来を思い浮かべて、自分で自分を笑ってしまうこともある。



でも、上条さん本人に、何かを感じている訳じゃない。


それだけは、確かだ。



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