社内恋愛のススメ
時間が必要なんだ。
私と上条さんには、過去を思い出にする時間が足りないんだ。
もっと時間が経てば、思い出だってそう簡単にはよぎらなくなる。
思い出しても、きっといつかは笑える様になるはず。
脳裏を掠めるありもしない未来だって、消えていく。
ありもしない未来は、所詮ありもしないのだと。
そう思う日が来る。
時間が、全てを変えてくれる。
綺麗な思い出へと、変えてくれるって信じている。
「話って、何ですか?」
わざと、冷たい声でそう聞く。
平淡に。
淡々と、何事もなかったみたいに。
まるで、初めて出会った人にそうする様に。
上条さんの声は、私の醒めた声とは対照的なものだった。
「………君も酷いな。僕は、君と話がしたかっただけなのに。」
上条さんの目の色が変わる。
上条さんの声色が変わる。
部下に対する態度じゃない。
今の上条さんは、ほんの少し前の過去。
そう、付き合っていた頃みたいな、甘い声で囁いている。
「………!」
体が、自然と強張る。
上条さんの言葉に、私が身構えたのは言うまでもない。
怯えるな。
これは、仕事なんだ。
プライベートじゃない。
怯むな。
仕事なんだから。
そう言い聞かせても、残る不安。
あんなに大好きだった人。
ずっと憧れていた人。
この人の隣に立つことを夢見て、それが叶ったのに。
上条さんのことをこんな目で見る日が来るなんて、皮肉を通り越して笑える。