社内恋愛のススメ
ここは密室。
助けは来ない。
来るはずがない。
だって、企画部のみんなは、私の異変に気が付いてすらいない。
私と上条さんが、仕事の話をしていると思ってるんだから。
会議室を使ってまでしているプロジェクトの話を、わざわざ邪魔しに来ないだろう。
(た、助けて………誰か。)
それでも、救いを請わずにはいられなかった。
私は分かっていたから。
上条さんの話が、仕事の話なんかではないということを。
上条さんが、私をわざわざ呼び出した理由。
それが、プライベートに関することだと。
仕事の話をするなら、上条さんはこんな顔をしない。
こんな甘い声で話しかけたりしない。
ほんのりと熱を帯びた瞳。
眼鏡の奥に宿る光が、私を捉えて離さない。
昔の私をときめかせていたその目で、私のことを見つめている。
「プロジェクトの話、ですよね?」
念を押して、そう尋ねる。
頷いて。
どうか、そうだと言って欲しい。
そうであって欲しいと、願いながら。
しかし、無情にも上条さんの口から飛び出したのは、仕事とは無関係の話だった。
「君が、長友くんのことを気にしているのが嫌なんだよ………実和。」
私の名前を呼ぶ、上条さん。
そう囁いた上条さんが、柔らかく笑う。
実和。
有沢さんではなく、私のことを実和と呼んで。
上条さんの言葉で、わずかにあった期待感が失望へと変わっていく。