社内恋愛のススメ
絡み付く視線。
その視線が、妬みという負の感情を引きずり出す。
熱くて、だけど悲しい感情。
その感情は、私には恐怖でしかなかった。
「その名前で、私を呼ばないで下さい!………お願いです。」
もう私達は、恋人なんかじゃない。
親しく名前を呼び合う関係でもなければ、体を重ねる間柄でもない。
あの頃みたいに、そう呼ばないで。
戻れない過去に縛られるのは、もうたくさんだ。
叶わない想いに囚われるのは、私にはつらいだけ。
これから、結婚する人。
私ではない人を選んで、未来を誓う人。
そんな人に縛られて、どうする?
どうにもならないじゃない。
もう、どうにもならないじゃない………。
だから、止めて。
私の気持ちを、上条さんは簡単に砕いていく。
残酷に踏みにじっていく。
「実和、ずっと見ていたよ。」
「え?」
「君が隣の席ばかりを気にしているのを、ずっと………。」
分かっていたよ。
上条さんが、私を見ていること。
私のことだけを、陰から見つめていたこと。
婚約している人がいるのに。
あんなに綺麗な人と、婚約までしているのに。
キャスターが付いた椅子が、コロコロと転がる。
転がって、距離が縮まる。
私と上条さんの距離がなくなっていく。