社内恋愛のススメ



「君はまだ僕のものなんだよ、実和………。」


違う。

そうじゃない。



「アイツに触られるのも、アイツのことばかり気にするのも………僕は許さない。」


上条さんの言葉に、背筋が冷えていく。


上条さんの言葉には、違和感しか感じなかった。



だって、違う。

私は、上条さんのものじゃない。


上条さんとは何の関係もない人間。



あるとするなら、それは部下としての付き合いだけ。

それ以上でもないし、それ以下でもない。


そもそも、私は誰かの所有物ではないのだから。



私は、私。

有沢 実和という、1人の人間。


私は私だけのものなのだから、他の誰かのものであるはずがない。

そうあってはならないのだ。


それなのに、どうしてそんなことを言うのだろう。



「わ、私………は、主任とは何の関係もありません!ただの部下です。」

「………実和。」

「他に、何だって言うんですか?それに、主任には素敵な婚約者がいらっしゃるじゃないですか………。」


突き放した言い方で、上条さんを牽制する。



私は、部下。

ただの部下。


上条さんの隣には、私ではない素敵な人がいる。

胸を張って紹介出来る、あの人がいる。



それでいいじゃない。


上条さんを突き放して。

遠ざけて。


しかし、その行動は、逆効果でしかなかった。



「………い、や。」


上条さんとの距離が縮まる。

なくなる。


上条さんとの距離は、0センチ。



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