社内恋愛のススメ
「他の人のこと、好きとか言っちゃダメだよ………。本当に好きな人にだけ、そういうことを言ってあげなくちゃ………ダメ………なんだ………よ………!」
そう言った瞬間、何かが私の頬を伝って落ちた。
私のことを好きだなんて、言っちゃダメだ。
言ってはいけないんだ。
他の人のことが、好きなら。
他の人を愛しているなら、間違いでもそんなことを口にしてはいけない。
愛している、その人はどうなるの?
結婚したいほど好きな、その人はどうなるの?
傷付くじゃない。
私が助けられても、その人は確実に傷付いてしまう。
冷たい涙。
ポタポタと、冷たい雫が滴り落ちる。
冷たい涙は熱く火照った頬を通って、生暖かい液体となって床に辿り着いた。
泣きたくない。
長友くんの前で、泣きたくない。
困らせたくないのに、涙が止まらない。
「泣くなよ………。」
「………っ、………!」
困った様な声で、そう言う長友くん。
あぁ、やっぱり困らせてる。
私、長友くんのこと、困らせてる。
そう思ったその時、ギュッと体にかかる強い圧力を感じた。
「お前、バカだな。」
頭上から降ってくる、長友くんの低い声。
聞こえるはずのない位置から聞こえる、長友くんの声。
耳元に感じる息。
目の前には、スーツの生地。
「バ、バカ………じゃな………い………!」
私の反論さえも、感情の渦が飲み込んでいく。
バカじゃない。
私、バカじゃないよ。
今のこの状況を、ちゃんと理解してる。
狭い給湯室。
長友くんと私だけの空間。
私を抱き締めてるのは、長友くん。
長友くんしか、こんなことを出来る人はいないんだって分かってる。
長友くんが私を抱き締めてるんだって、頭では分かってる。
ただ、気持ちが付いていかないだけで。